起 源 と 意 義

はじめに

 私が生まれ育った古里、島根県・益田市では、毎年秋の収穫が行われる10月になると各地の神社で石見神楽が奉納されています。 

 子供の頃には秋祭りの夜ともなれば神楽囃子に心踊らされ、夜を徹して神楽に見入っていたものです。
当然の事ながら「今日はあそこの祭りだ!」と言えば友人を誘って町向こうまで自転車を走らせ「遠征」に出掛けていました。
 また、学生時代には机などを叩いて神楽囃子を真似てみたり、古着のドテラを舞衣に見立てて舞ってみたり・・・・ついには、神楽熱が高じて体育祭や文化祭などで演じる始末となりました。

 今では「石見神楽」と呼ぶ人が多くなりましたが、当時は単に「舞(まい)」と呼んでいました。
ですから、「舞を舞う」とか「舞を見に行く」と言った表現が一般的で、今でも「舞」と言った方が私には馴染みがあります。


 これほど石見神楽が盛んになった今日では、一年を通して石見神楽を鑑賞する機会に恵まれ、また、多くの人達にも知られるようになって喜ばしい事です。

しかし、その一方で一段とイベント化が進む傾向があります。
この事自体は多くの人達に石見神楽を広め、観客を魅了するためにも一概に悪い事とは言えず、また、石見神楽が時代に取り残されないためにも新たな試みも必要であると思います。

 しかし、目に見える華やかさばかりを追求するあまり、旧来の伝統ある神事的、儀式的な演目が軽視され、廃れていく傾向もあります。
 また、石見神楽本来の「舞の基本や美しさ」、「神楽歌や口上の丁寧さ」に欠ける社中が見受けられるのも事実です。
 時代の流れと共に変革して行くことは必要な事とは思いますが、その事と「大事な事、大切な事」まで蔑ろにする事とは本質的に違うのではないかと思います。

 この事に一人の石見神楽愛好家として苦言を呈するとともに、「芸術的な気品を兼ね備えた郷土の伝統芸能・石見神楽」が「神楽として」後世にまで伝承される事を願って止みません。
(写真は「鐘馗」 益田市 津田神楽社中)







神楽の起源


 
日本の古典である古事記および日本書記の中で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が弟神・須佐之男命の悪業に腹を立てて天の岩屋戸に隠れた際、天の宇津女命(うずめのみこと)が岩屋戸の前で舞ったとされる神話が定説となっている。
 太陽神である天照大御神が岩戸に隠れるということは太陽の力が弱まるということであり、そこで宇津女命が神楽を演じることによって、岩戸が開いて再び太陽が光り輝くという一種の太陽の復活儀礼であるという説もある。
(演目の解説「天の岩戸」参照)

 集団生活が営まれると、自然と共同体の信仰が生まれ、祭祀も行われるようになる。
昔の人々は、人の生命力が衰えるのは魂が肉体から離れようとする現象であると信じていた。
魂が一旦とび去っても魂招(たまふり)、魂鎮(たましずめ)と呼ばれる呪術を使って招き戻そうとさえした。
 つまり、神楽は祭祀の一つとして発生したものと考えられる。

 宮中の御神楽(みかぐら)に対して、民間の神社で神を祀り奉する神楽はその式の相違によって「巫女神楽」、「出雲流神楽」、「伊勢流神楽」、「獅子神楽」に分けられ、「里神楽(さとかぐら)」と総称される。

 宮中の御神楽は旧暦の11月に行われる。
この旧暦11月は冬至の時期であり、一年中で太陽の力が一番弱まる時期であり、この時期になると人間の根源である魂、活力も一番弱まると古代の人達は考えていたようである。
 この魂を鎮める鎮魂の行事が宮中の御神楽である。

 「古事記」
 現存する日本最古の歴史書で三巻からなる。
稗田阿礼(ひえだのあれ)が天武天皇の勅命で誦習した帝紀および先代の旧辞を太安万侶(おおのやすまろ)が元明天皇の勅により撰録して712年(和銅5年)献進したものである。
神話・伝説と多数の歌謡を含み、全編天皇家を中心とする国家統一の思想で貫かれている。
(岩波書店 広辞苑より)

 「日本書紀」
 六国一(りつこくし)の一つ。奈良時代に出来た我が国最古の勅撰。神代から持統天皇までの事績を漢文で記述した編年体の史書30巻からなる。
 720年、舎人(とねり)親王・太安万侶らの撰進。
(岩波書店 広辞苑より)

神楽の意義

 
「広辞苑」によると、「神座(かむくら)」の転で神遊(かみあそび)とも言う」とある。

 神座(かむくら)と呼ばれる神の依りところを設けて、そこに神々を降ろし、神に仕える巫女(みこ)が集まった人々のけがれを祓ったり、神懸かりとなって神の意志を伝えたり、また、人の側からは願望が伝えられた。

 つまり、神を迎え、迎えた神と神人一体の宴を催す事にある。
 また、神楽奉納の目的は農耕民族である日本人が、日の神「天照大御神」に五穀豊穣の祈願と感謝をする意味もある。

(写真は「二人芝」 益田市美都町 丸茂神楽社中)